小津安二郎 お早う ロケ地

小津安二郎 お早う ロケ地

「さて、どこから食べようか」と考えたときに、奥底から醤油味で煮込んだシイタケやタケノコ、ゴボウ、鶏肉など、茶系のグラデーションが目に付いた。特に、上田を貫く旧北国街道は、盆地ゆえに山が街並みに迫り、小津監督が好む広重の浮世絵のような画角で撮影することができた。旧北国街道は中山道から追分宿で分かれ、日本海側に抜ける道として利用された。味噌ダレが無くなると、そばツユに切り替えた。食べおわると、残ったツユに濃い白濁色のそば湯を注ぐ。味噌や醤油、薬味が溶け合い、のどごしに自然の恵みを豊かに感じた。時代性を反映させるため、工場は最先端の産業から選ばれた。戦前に撮影した工場はビール工場や製糸場などで、戦後は重工業へと変わる。今観ると、往時の産業を記録した貴重なフィルムといえる。海の家のような半オープンの造りで、千曲川の涼風を感じながら食べる川魚は格別だ。正面の事務棟など、主要な建物は大正6年(1917年)の建築を使い続け、「蚕都上田」とよばれた時代の面影を今に伝えている。想定外の展開に、独自のこだわりを感じた。海苔はフタの重みで具材と馴染み、味が落ち着いている。親子丼の甘辛味をより深めていた。訪ねた日の昼どきは、街から車で来るサラリーマンらしき常連客が多かった。小津監督がロケに使った約30年後に市川崑監督がロケに使い、それから40年後の今でもロケに使われている。鮎塩焼は、店先で天然の大きな鮎を炭と薪で豪快に焼く。炭火の遠赤外線効果が鮎の身の中心までじっくり火を通す。駅弁は旅の高揚感を盛り上げる。おそらく小津監督も信州ロケに行くときは、駅弁を楽しんだのであろう。そばを箸で持ち上げると、コシの強さで湾曲しながら横に広がる。このため、ツユ用の器は広口を使うのであろう。それでも、短い蕎麦は勢い余って器から飛び出す。いろんな宣伝文句が書かれているが、特に「信越本線横川駅」の「本線」が、いかにも長距離の移動を思わせ、旅情がにじみ、釜めしの味を深めている。味噌汁はまろやかな甘辛味で、糀の粒がたっぷり入っている。具材はダイコンとニンジンのいちょう切りが中心だが、全体の甘味はそれだけではないと思っていると、底からトロける寸前のカボチャがごろっと現れた。総じて上田には、風雪に耐えてきた歴史的建物が多く、その表情のリアリティが貴重な存在になっている。味の質がちがう漬物を釜めしと一緒に盛り付けず、なおかつ列車の座席の狭いスペースに配慮した工夫に、旅客への思いを感じた。小津監督が上田をロケに選んだ要素のひとつに、城下町が思い浮かぶ。その表現のためには、大都市から小都市へ転居する設定が必要で、ここにも上田を選んだ背景を感じる。小津監督は、なぜ転居先に上田を選んだのか。その背景を探るために上田をたずねた。釜めしに付く漬物は、マッチ箱ほどの大きさのパックに5種入っている。街を見おろしながら金沢より小さな街だと語り合う。小津監督は物語を通して「都落ちからの再起」を描くことが多く、転居はその節目になる。『父ありき』の物語には、小津監督の青春時代の影響が見られる。しかし、自伝ではなく、あくまでも創作なので、着想を広げるために、設定を松坂と同じく、城下町の情緒が残る上田に置き換えたことが推測される。梅干しやナスは小指の先ほどの大きさで、そのために小さな食材を仕込んでいることに驚く。小津映画『若き日』(1929年作)の学生は、信州に向かう列車の中で駅弁を食べる。この場面のロケは上田城の南櫓(みなみやぐら)の石垣の上で撮影された。まず、包装紙の鮮やかな色が目をひく。浅間山の溶岩か、釜を熱する炎のようで、気分が華やぐ。しかし、小津映画のローアングルだと、丼は側面しか映らず、中味のメニューはわからない。父は石川県金沢市で教職を辞め、長野県上田市の知人を頼って転居し、村役場で働く。その前のカットに映る食堂の看板には、代表メニューとして親子丼と書かれていたことから、親子丼と仮説して和風の食堂を探した。そこで、これをおかずにご飯を食べようと思い、甘いアンズやクリを先に食べ、突破口を開いた。東京の深川で生まれた小津監督は、子どもの教育は田舎のほうが良いと考えた父の配慮で、10歳から20歳までの十年間、父の実家がある三重県松坂市で暮らした。親子丼の具材には、キクラゲも仕込まれていた。これも独自の工夫で、コリコリした食感とコクがアクセントになっている。どれも漬け方や食感がちがい、味わいのバラエティーに富む。これだけでご飯一膳食べられそうな完成度がある。場末に進むにつれて小さな飲食店が増えてくる。江戸時代は、このあたりが色街かもしれない、と思いをめぐらせて歩く。映画館はそんな路地裏にあった。ウロコにしみ出した脂分が表面で沸騰して、揚げ物のようにパリッと焼き上げる。しっかり付いた塩がメインの味を決める。薪の煙りが燻製効果になり、鮎に香ばしい香りをつける。このため、『父ありき』では、そばが名物の上田を感じさせるために、石うすを回してそば粉を挽く人を映した。フタを開けると、黒い刻み海苔のトッピングに意表を突かれた。親子丼のトッピングといえば三つ葉だろう、という先入観をくつがえす。そんなシーンをイメージして、上田城を見物する前の腹ごしらえに、丼物を食べることにした。「真田そば」には、そばツユと味噌が付く。味噌は広口の器に入り、ナメコと鰹節が添えられている。昆布と一緒に漬け込まれたキュウリは、ほのかな塩味と旨みがあり、どこかに懐かしさを感じた。だとすれば、小津監督は元祖・工場萌えであろう。生活感を表すために、産業を物語に取り入れ、操業する工場のカットを盛り込むことが多かった。「栄食堂」はカウンター2席とテーブル8席。家庭的な小さな食堂である。ダシ汁で炊き込まれたご飯は、割り箸を差し込むと、思ったより底が深い。間口は狭いけれども容積は広く、食べごたえがあった。味噌はお店の人に聞くと、専門店に糀を多めにしたブレンドを別注しているそうだ。味噌汁の底に沈殿した野菜や糀のドロッとした粒子を、ゴクリと飲み干す至福に、味噌王国信州の矜持を感じた。1997年、軽井沢方面に向かう新幹線が開通し、横川駅を通過するようになると、釜めしとはご無沙汰していたが、サービスエリアで食べられる奇遇に喜んだ。五階繭倉庫は重要文化財でありながら、現役の倉庫として活躍している。倉庫を所有してきた笠原工業が手がける発泡スチロール製品を保管し、産業の栄枯盛衰と業態転換を見続けている。小津映画『一人息子』(1936年)の母親は、長野県のシルクの製糸工場で働き、製糸場や巨大な繭倉庫が映る。日本の製糸業の全盛期は1930年頃で、国の経済を支えていた。小津監督はそんな時代の工場を映した。一緒に付くダシ汁を好みの量注ぎ、味噌ダレ状に溶いてからそばをつける。街道を進むと変わる景色は時の流れのようで、宿場は転々とする住まいのように考えていたと思われる。映画監督・小津安二郎ゆかりの地を歩くエッセイ。今回は長野県の上田市をたずね、旧街道の面影をめぐりました。出てきた親子丼はフタ付きだった。フタを省く店が増えるなか、フタの役割を大切にしているサービスがうれしい。1958年、群馬県の横川駅で販売がはじまった「おぎのや」の駅弁「峠の釜めし」は、旅客の口コミから一躍人気になった。工場の写真を好んで撮る現象を、近ごろ「工場萌え」と表現したりする。その象徴といえる五階繭倉庫は、小津監督が描いた製糸業の全盛期をしのばせる。車で旅に出るときは、サービスエリアのご当地グルメが旅の高揚感を盛り上げる。上信越自動車道の横川サービスエリアでは「峠の釜めし」も販売している。炭火で引き出された、鮎の多彩な味には、甘口の竹酒がよく似合う。汁物として、「おろし小そば」をセットで注文した。サービスエリアならではの魅力である。1970年代、中学校の修学旅行で軽井沢に行くとき、親兄弟から「軽井沢に行くなら、横川で釜めしを食べるべし」とすすめられ、伝統を体感した。上田城は明治の廃城令で建物のほとんどが撤去された。小津監督が撮影した当時、西櫓の建物は残っていたが、あえて石垣だけになった南櫓で撮影した。それが親子の虚無感と転地への不安を強調する効果になった。しかし、映画のなかでは、郷土料理をズバリ映すことを好まず、奥深さを求めた。そんな旧北国街道を、江戸からの旅人を想定して、追分宿から海野宿、上田宿と歩き、無常観を思った。「上田蚕種協業組合」は大正5年(1916年)、地元の蚕種業者が出資して設立した蚕の卵を人工的にふ化させる施設で、現役として活動を継続している。不ぞろいだが、手打ちのため、そばにふくらみがあり、モッチリした歯ごたえがある。焼き上がった鮎の身はキメが細かく、ホクホクした食感のなかに、部位によって甘みや旨み、苦みが広がる。サクッと焼けた頭も食べられる。重いフタの下から、多彩なおかずが現れる喜びが、釜めしをより美味しくしている。おかずの彩りや配置は、この一瞬を大事にしていることがよくわかる。味噌ダレは、よじれたそばとよく絡み、甘辛い味噌味がそばの風味とよく合い、ナメコと鰹節がコクを深める。上田にある「重文 常田製糸場」は、明治時代の製糸業の遺産を見学することができる。このため、人生の流転や無常観を描くために、江戸時代から残る旧街道を背景に使い、旅情を味つけにした。これも上田を選んだ要素のひとつであろう。あらためて「峠の釜めし」を食べると「よくできている」と実感する。味もさることながら、旅客の心を上手くつかんでいる。今の上田の街角には、戦国時代のものはほとんど残っていないが、敵の直進を防ぐための入り組んだ路地や、鍛冶町や大工町などの地名に、城下町の面影をしのぶことができる。親子丼に付くキュウリの浅漬けは、大きめのカットで、噛むとポクンと小気味良い音がして、とれたての新鮮な風味が香る。今は南櫓も再建され、内部の見学ができて観光地として整備されている。歴史的建物は移動撮影に使えるほど並んでいないが、どの監督もピンポイントで俳優の背景に映し、巧みに活用していた。『父ありき』(1942年)は、父の仕事の都合で転居する親子を描いた。上田に行くと、あちこちで「そばマップ」が配られて、見ているうちに、そばが食べたくなった。「鯉西のつけば小屋」は、川魚料理店「鯉西」が川魚の旬に期間限定で千曲川の河川敷に開く店舗である。フタからはみ出した、飴色に煮込まれたタマネギの小片が、これから親子丼に挑む期待を、映画の予告編のように盛り上げる。

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